写遊百珍

大阪国際メディア図書館「写真表現大学」研究ゼミ生&TA。各種講座のレポや、関西・東京の写真展、アート展示を特集。

H30.1/22(月)個人史を刻むように ~歯を削る、埋める、繰り返す~

H30.1/22(月)個人史を刻むように ~歯を削る、埋める、繰り返す~

 

歯を削っています。

大学病院に行きました。

 

 

削った歯の痕を埋めていきます。

それらの繰り返し。

 

私は医師ではないので、「歯を削ってもらった」「埋めてもらった」というのが正しい日本語ですが、歯は自分の体の一部でありながら、爪の先や髪の毛のように、からだの外部に突き出た「他物」のような存在でもあり、いまいち立ち位置が分かりかねます。

 

一方で、多くの人にとって、歯は個人史であります。幼少期から治療や外傷の歴史を刻んできた証人であり、いつどの歯をどのように傷め、どんな治療をして、結果どんな形状になったか、エピソードが凝縮されていると思います。そしてまた、新たな治療によって、個人史の1ページが追加されました。全然うれしくない。

 

 

チュイーン。

 

 

( ´ - ` ) 全然うれしくない。

 

 

毎日必ず歯磨きしてるのに。なんでや。

 

とかなんとか言っていると虫歯が神経に到達してしまい、そうなると歴史もへったくれもなく、神経を抜く羽目になり、神経を抜くと歯は枯れ木同然になるらしく、色々と死ぬらしいので、速やかに治療しましょう。今回は神経到達のぎりぎり手前で気付いてラッキーだったとしか言いようがありません。。

 

 

事の発端は12月初旬から「右上の奥歯の銀歯が、冷水で口をゆすぐとしみる」というものでした。そこは7~8年前、銀歯の内側で進行していた虫歯を削って治療したところでした。その銀歯は小学生の頃に詰めたものでした。

もしかしてまた銀歯の中で進行しているのでは・・・ それで12月中旬から梅田のど真ん中のクリニックで診察してもらったところ、案の定、の斜め上で、見た目は普通の奥歯、ふたを開ければ内部は空洞、神経ぎりぎりまで虫歯が進行していました。黒い個所はぎりぎりまで削られ、あとはセラミックを入れようかというところまで治療は進みました。

 

 

 

とFBに投じたら、歯科医をされている大学時代の写真部の先輩からメッセージが来て、大人のやりとりの後、大学病院に行くことになりました。筆者は病院関係者ですが、業界には色々あり、ひとつ隣の国(歯科領域)の情勢は全く分からないということが分かりました。セラミック等々、高額な自費診療の発生しやすい分野なので、色々な話があります。

 

 

今回はクリニックで削り、セメントを埋めた個所をもう一度掘り返して確認の上、銀歯の代わりにセラミックを入れてもらいます。削っては埋めての繰り返しです。歴史は踊ります。

 

 ごめんください。

 

大学病院は質素なもので、少し昔の市民病院とよく似た空気が漂い、謎の親近感があります。予約は入れてもらっていたものの、初診で紹介状なし、30分ほど初回の手続きをしました。「どの先生のご予約ですか」「マツダ先生です」「マツダという苗字の先生は複数おられるんですが」「何科か分かりますか?」「いやあのその」「虫歯けずってくれるっていう話で」「先輩なんすよ」「そういう科だと思います」手続きを終えます。

 

梅田のクリニックには「急な転勤で東京に飛ぶことになりましたので」と伝えたのですが、子供でもわかるような嘘で、当方は転勤がなく、今日も明日も来月も梅田で作品の撮影をしていると思います。ぎゃはは。

 

 

 

 

「・・・これはヤバいな」「えっ」「うそやで」 高度なジョークから治療が始まりました。

 

 

 

器具で歯の様子を観察されていると思ったら、麻酔の二本目を打たれていました。信じられないぐらい自然で痛みがありませんでした。

 

 

 

「矯正で歯抜いてる?」「はい」 歯列矯正で1本抜いた上に、暴れ馬みたいな生え方をしていた親知らずを1本、計2本抜いています。本来8本あるうちの右上顎は6本しかなく、私の人間性のように荒涼としています。

 

「骨が常人の倍ぐらい太いわ、矯正したとは思えへん」生まれて初めて聞いた評でした。人の歯茎を舐めることはあっても、太さを比べることはまずないので、意識したことがありませんでした。麻酔が口腔の右上を包み、体の一部なのに無感覚な、じんじんしたものになり、どことなく気持ちよく、眠気を感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

松田さんも、本業(歯科医)と並行して写真作家として活動されており、中判カメラによるモノクロームの海外情景を作品にされています。光を生きたままプリントに織り込む技、精神性が見事であるとの評です。残念ながら最近は本業が忙しすぎて、前回の個展からほとんど暗室に入れていないとのこと。

 

mareosiev.hatenablog.com

 

 

 

 

 

出血があるので休憩します。

 

歯の治療というのは、麻酔さえ効いていれば脳天に響くぐらい振動があっても、わりと泰然としていられるもので、眼は見えているし、意識もあるし、歯は他人事だし、視野のすぐそこは見えているのに術野は見えないしで、自分が患者なのか何なのかいまいち分からない不思議さがあります。けれどもその時々の個人の歴史を刻む行為である、ますます不思議なものです。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

削りあとにコンポジットレジンを入れます。色々と固まるのを待ちます。2本のうち1本は詰めるだけで良く、もう1本をセラミックにします。親身になってくれる方がいるとコンサルテーションが受けられて本当に助かります。

 

クリニックでは「銀歯・・・・☆(保険適用) セラミック・・・・★★★★(自費) ・・・・★★★★★(自費)」という、根拠は分からないが気持ちは分かる比較表を渡されて即決を迫られたため、「・・・2本ともセラミックで」と答えざるを得ませんでした。冠婚葬祭と医療は松竹梅方式で容易に詰みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療が終わりました。1時間ちょっとの治療でしたが、濃密でした。麻酔のせいかひどく眠くて意識の電源が落ち、患者ぽい患者になっていたように感じます。神経を抜く羽目にならなくて本当に良かった。そういった諸々のこと、今の自分の状況などが、この歯に記憶の凝集体として刻まれます。次に歯に何か起きたときには、この大学病院の景色や松田さんの声、曇天、麻酔の味、ドリルの振動、吹きかけるエアーの痛み未満の刺激、バキュームの音、待合で落としまくるビニール傘、料金精算で落とした小銭、便所で誤作動した警報、作品テーマが決まらないことの苦しみ、米津玄師の天才性、科学者落合の異端性、#Me Too旋風、シノアリス・ギルドメンバーの強さ、定時の稼ぎ、東京地方の降雪とダイヤの乱れ、などのことをパッケージとして想起するのだと思います。

 

 

 

 

 

 

患者でもなく、医療者でもないところで時間を過ごした感じがあります。歯という部位の特殊性のせいかもしれません。写真のせいかもしれません。また来月末に通院をします。

 

 

 

この後、自分が十数年前に居たはずの学部のキャンパス周辺を歩きましたが、不思議なことに記憶の中にある=体に馴染んでいる風景と、今の身体で触れている現実の風景とが全くマッチせず、他人の通っていた学校のように見え、ひどい違和感に苦しみました。これについてはまた別で書き残しましょう。

 

 完。