nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【ART―写真展】ロバート・フランク展「Robert Frank:Books and Films 」@KIITO(神戸)_H29.9.18

【ART―写真展】ロバート・フランク展「Robert Frank:Books and Films 」@KIITO(神戸)_H29.9.18

 

H29.9/2(土)~23(土)、写真界の巨匠・ロバートフランクの大規模な展示が開催されています。昨年11月に東京藝術大学陳列館で催された企画の神戸版です。

 

結論から言うと、ロバートフランクの集大成的な大規模展示が開催されることは、世界的に見ても、極めて難しい状況にあるため、行けるなら足を運ぶべきです。

会場では、これまで発刊された写真集を時系列でダイジェスト紹介し、なおかつ映像作品も公開されています。

  

  展示はオリジナルプリントではなく、安価な新聞紙に印刷したもので、会期終了時には破いて棄てるという特異な形態をとります。

 

企画が困難な事情として、彼のオリジナルプリントが美術品として非常に価格高騰していることや、展示となると作品保護の観点から長期の作品貸出が困難(露出させてよい時間が厳格に定められている)かつ多額の保険料が必要であることなどが挙げられます。

企画はドイツの出版社:シュタイデル社。辣腕創業者ゲルハルト・シュタイデル氏が現地入りして展示計画を立て、主に学生らからなるボランティアスタッフが作業を行い、運営に際しても毎日のお掃除などはみんなボランティアでこなしているということです。

そして、なんと入場料無料です。学生の教育に資するためという理念のためらしいです。手を合わせて拝まないといけません。非常に有意義な企画であると分かり、後にスポンサーを名乗り出る企業が現れたりしたそうで、やはり色々と手を合わせて拝まないといけません。

 

 

(追記)

最終日、おかわりに行きました ( ´ -`)

 

mareosiev.hatenablog.com

 

 

 

この地球では「写真やっててロバート・フランクを知らないのはモグリだ」という掟があったりするので、うそでもいいから知っておくと吉です。92歳で存命中、昨年から今年初夏にかけて映画「Don't Blink ロバートフランクの写した時代」が公開されるなど、ロバフラ熱の高い時節となっています。残念ながら映画については、観に行ったものの掴みどころがなくて寝てしまったので、またご縁があれば覚醒度の高い時に再鑑賞してみたいものです。

 

彼は1950年代のアメリカを旅しながら流れる映画のように撮りため、写真集「The Americans」で空虚さや寂しさと背中合わせのアメリカの姿を映し出し、歴史に名を刻みました。彼が生粋のアメリカ人ではなく、スイス人移住者だったからこそ、アメリカの内側から外部の眼差しで見つめるという離れ技をやってのけたのだと感じます。

その眼差しは当時趨勢を誇っていたグラフジャーナリズムの視点ではなく、計算された美を求めるアート写真やファッション写真とも異なり、極めて作家本人の肌感覚、パーソナルな揺らぎが感じられるもので、ブレや水平の崩れすら心地よいリズムへと換えてゆきます。W.エヴァンズの詩的表現の発展系を感じます。35ミリフィルムの機動力と、時代の躍動感・不確かさがマッチした作品となっています。

 

というのが教科書的なロバフラ解説になりますが、実は私達は「The Americans」以外の仕事を全然知らなかったりします。写真史上の評価がそこに集中し過ぎているんですね。というわけで本展示ではロバフラのすそ野が際限なく広がるという貴重な機会になり幸せになるはずです。

 

 

以下は展示を垂れ流します。基本的にその場の意識があっても記憶がない人間なので、脳のメモリ領域を刺激するためにやります。

(会場内撮影やアップロードは自由)

 

「Portfolio : 40 Fotos 1941/1946」(1941-46)

23歳の頃のポートフォリオ。スイスで撮ってアメリカ移住時に持参。

 

 

若いなー。非常に温和というか平和というか安全な内容。切り取る瞬間のセンスは凄い。けれどどれも安全な。その後アメリカをあんな風に切り取るとは思えません。40~50年代のアメリカには魔性の風が吹いていたんでしょう。

 

 

写真集 「Peru」(1949)

 えっ。なんでペルー?? 何がなんやらよく分かりませんがペルーを撮っていました。母親の誕生日に贈ったそうです。

 

ペルーだ。この時点で短編映画のパンフレットを見ているような既視感があります。一枚一枚の写真が閉じていなくて、前後、左右の他の写真へと流体のように繋がっていくという感覚。どの写真も画の焦点、焼き加減がフラットに抑えられていて、全体で一つのものになるように作られています。

 

 

 

 「Black White and Things」(1952)

雰囲気で写真を「黒」「白」「もの」の3つに分類したとのこと。

ものって何だろう。

 

かっこいい。ブレッソンだと構図が完成されすぎてて見る側の逃げ場がないので体調によってはキツいですが、ロバフラは緩くてこっちの勝手にさせてくれるところがある。寝てもいい映画みたいな。けどカッコいいし奇怪なもの、不気味なものがしっかり入ってきます。都会が抱えている闇がしっかり生きているというか。 

 

 

 

 

写真集 「THE AMERICANS」(1958)

出た。これ。ザ・写真史。

写真集を買うなら、ジャック・ケルアックの序文を日本語で読みたいかどうかで日本語版か英語版を選べばいいと思います。私はケルアックだけでなくビートニクな方々全般の文体がわりと生理的にダメで合いませんし、文章何言ってるか意味が分からないのですが、ビートニクの存在は好きなので日本語版を買いました。序文は当初W.エヴァンズが書いていたけどフランクが気に入らなくてケルアックに依頼し直したとかいう話があります。

 

「フランクは、アメリカでの人々の生活の裏側に隠された部分に目を向け、人種差別に苦しむ人々や、政治家たちに不当に扱われている人々、急速に拡大した消費文化によって無痛覚にさせられた人々の姿を露わにした。」

 

 空虚さ、寂しさと、変な高揚、空回り感などが生き生きと写っています。アメリカという巨大な生き物の生態記録のようです。27,000カットの写真からセレクトされた結晶です。作品というのは数を撮らないとだめです。

 

 

「Zero Mostel reads a book」 

喜劇俳優ゼロ・モステルの写真群。

 

 もう完全に映画のパンフレット。

 

 

 すごい面白い人だしフランクものりのりで撮っていることがわかった。

 

 

 

 映画「Me and My Brother」(1968)

 「偽物と本物を、ポルノグラフィーと詩作を、行為と存在を、ビートニクシニシズム(皮肉癖)とヒッピーのロマン主義を、モノクロとカラーをそれぞれ競わせたのである。」 全然分からん。

 

この丸顔のメガネの愛嬌ある髭親爺はアレン・ギンズバーグと思われる。

 

 

 後に映像も観ましたが、全然分からん。

 せめて字幕がないときつい。

 

 

 写真集「The lines of My Hands」(1972)

 「間違いなく『The Americans』に次いで、ロバート・フランクの最も重要な本であり、時に告白を交えた自伝的な本作りの手法を確立した出版物といっていい」 「1972年までのフランクの仕事の各時期から選ばれた作品を紹介している」まじか。

 

 

うわっ、この怒涛の滝のようなイメージは凄いな、まさに映画というか。映像体験。視覚の滝です。飲まれる。 

 

 

 アートとプライベートドキュメンタリーのぎりぎりの境をうまく突いている。アートに寄りすぎるとたぶん写真は勢いを無くして死骸や標本みたいに面白くなくなる。私的ドキュすぎるともっと後世の作家って感じになる。写ってるものみんなが匿名性を保ちながら活き活きしている感。これ欲しいなー。米Amazonで見たら50ドル。余裕で買えますやん。

 

 

 写真集「London/Wales

 「The Americans」の前に(1951-53年)撮られた、ロンドンとウェールズ地方の作品集。

「かたや、1951年から53年の間に撮影されたロンドンの裕福な旅行家、ビジネスマン、子供たちの写真。かたや、1953年に撮影されたウェールズ地方の炭鉱夫とその家族の写真である。」えー。そんなんあるの。

 

 

絵本みたいだ。どこか可愛げがあるのがロバートフランク風味。なんだろうな。

 

 

 ウェールズ地方の炭坑夫らは真っ黒でドロドロですが、さきのロンドンのお子様に負けじと愛嬌が溢れています。どうやって撮ってるんだ?

 

 

 写真集「Storylines」(2004)

「2004年にロンドンのテート・モダンで開催された「Robert Frank:Storylines」展のカタログとして出版された」「単一の写真イメージに対するフランクの苛立ち、連なりや多様なメディアの独自の用い方、写真とフォト・コラージュの融合などが明らかである」なるほど。苛立ち。 

 

 

けっこう写真にスクラッチ刻んだり上から塗ったり切り貼りしたり、直に手を突っ込んで映像編集をやります。「The Americans」しか知らないと、ロバートフランク=ストレートフォトの街角スナップ写真家と思い込みますが、実験精神が旺盛すぎて驚かされます。

 

 

 写真集「New York to Nova Scotia」(1986)

 「写真家、映像作家フランクの込み入った作家活動の歴史と精神が、本書に掲載された未発表の書簡や写真、展評、評論、フランクの作品18点から読み取れる」「1954年のグッゲンハイム財団へのフランクの提案書、その旅の途中でフランクを逮捕したアーカンソー州の警察官からの手紙、映画のスチル写真、彼がこれまで手がけてきた写真作品などが収録されている」 

 

 

 

 

 

 写真集「Come Again」

 レバノン内戦で壊滅した下町の撮影を依頼されていたという。仕事の合間に撮ったポラロイドをノートにコラージュ、実験。

 

 

 レバノンに見えん。

 

 コラージュとアッサンブラージュ

 

 

自分はやはりストレートな写真の方が力がすごくて好きですね。

 

 

 写真集「Paris」

1950年代初頭のパリでの写真まとめ。

 

  

 

こっちはフランク節が効いてるなー。都市の中で看過できないものが捉えられています。不気味な、不思議な、生命力とでも言うのか、 パリって何だっけという。

 

 

 写真集「Household Inventory Record」

 「現在も進化し続けているロバート・フランクの"ヴィジュアル・ダイヤリー(目で見る日記)"」のシリーズに含まれる。レディメイドの書籍」

 

 やばいめちゃくちゃかっこいい。

日々のシーンが光り輝いているんですが。どうなってんの。カラー写真の色の余韻が目に響きます。日常っていうけど日常を超えた世界ですなあ。

 

 

 かっこいいですね。映像能力ですね。リソースの振り分けどうなってるんでしょうか。憧れますがこんな能力の振り方したら私だったら日常会話できなくなりそうです。今でも出来ていないという説があります。

 

 

 写真集「In America」

1950年代のフランクの活動を総括する一品。

「周到に並べられた131点の図版には、『The Americans』の写真22点と、無名の、もしくは馴染みの薄いイメージ100点以上が組み込まれ、1950年代のフランク作品の主要なテーマと視覚上の戦略を示している」

 

 

ななななな。

 

 

ななななな。

アメリカの都市化、消費社会化の先端部位が、国土を次々に浸食していくのが捉えられています、超かっこいい。

 

彼の撮ったパリやロンドンに比べて、アメリカ都市部のこの、優しさのない、全面的に攻撃性に特化したような環境、経済的武装とでもいうのか、圧倒的に特殊ですね。基本的に人が人間らしく穏やかに棲む空間じゃないような。

 

 

 都市のパワーを減衰させずに、そのまま伝えています。

 

 

写真だけでなく、フランクの作成した映像作品も公開されていて、非常に面白いことになっているんですが、字幕がないのと、内容がアバンギャルドなのとで、どうしたらいいのか全く分かりません。椅子に座ったまま迷子になります。

 

 「Me and My Brother」を見てみます。 

 

 「ロバート・フランクが初めて手がけた長編映画で、1968年に完成し、ヴィネツィア映画祭で初公開された。そこには、それまでフランクの芸術を特徴づけてきたあらゆることが登場する。すなわち、"外側"から見たアメリカの姿や、ビートニクの詩趣に富んだ自由思想、中心的な役割を担う外れ者たちだ」

 

おもしろそう、 

 

 んー。

 

 

 んーー。

 

 

 

( ´ -`) よくわかりませんね、

 

 

英語の勉強してないと人生損することがわかりました。家帰って寝ます。

 

 

 

短編映像もずらりと、

 

 

 

 これこそ本当に何がなんやら全く分からないため、脳の疲弊をなぐさめるのに最寄りの自販機でドデカミンを買い求める事態に陥りました。炭酸で糖分を摂らないと厳しいです。

庭先の小さな農場?で牛とじゃれていたかと思ったら、解体が始まったり、ずっとカタカタ音が鳴っていたり、理屈では計れない世界があり、「そういう時代だったんですね」ということで学びとしました。

 

 

 

シュタイデル社の企画にふさわしく、同じ写真集でも版によって写真のトリミングが異なるという解説です。傾向を見ると、初版に近いほど大胆にトリッていて、現代に近いほどできるだけ削らないよう素のネガの画を尊重しているようです。

 

 

 各写真集が宙に浮いているので読んだりできます。

全体を閲覧して、サッと見で90分、じっくり付き合って映像かじって写真集まで吟味すると、けっこう大変です。最寄りの自販機でドデカミンでも飲んでないとやってられないと思います。しかし大変に良い展示です。観るのが吉です。

 

 

余談ですがKIITOから10分弱歩いたあたり、旧居留地商船三井ビル「SALON」にて、本展示とリンクして写真集の見本提示&販売があります。

 

/(^o^)\ ほとんど売り切れてました。

 

みんな手が早いニャー。

 

こちらのお兄さんが会場設営のこととか、シュタイデル氏が現地入りしたときのことなどのエピソードを色々話してくれて面白かったです。買えなかった写真集についてはAmazonを丹念に調べるなどしてあれしました。

 

 

 

おしまい。