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ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【写真展/KG】KYOTOGRAPHIE 2015(中編:ギャラリー素形、誉田屋源兵衛、無名舎、花洛庵)

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2015

中編として、ギャラリー素形、誉田屋源兵衛、無名舎、花洛庵 をご紹介。

 

<前編はこちら>

 

www.hyperneko.com

 

 

 

中編ではNo.6~10をレビュー。

 

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<6 ギャラリー素形> (ギャラリーすがた)ノ・スンテク《reallyGood,murder》

 

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こちらの粋な物件は築300年の京町家を用いた和菓子屋「然花抄院」(ぜんかしょういん)、そしてその奥に佇む「ギャラリー素形」(すがた) 。元は呉服屋さんで なんで呉服屋とかナントカ問屋というのはこうも突き抜けた財を成すことができたんでしょうか。ヘボ町民がパズドラとかに夢中になってる時も独創的な努力を重ねていたのですか。

(※注:筆者はパズドラにうつつをぬかし、可処分時間をドブに棄てていました) 

 

 

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展示は 見ての通り、我々庶民と軍事との接近。

日常生活の一部として軍事が忍び寄っていること、違和感なく刷り込まれている有様を見事に告発する作品。恐らく我々も、自衛隊や米軍基地の航空ショーや、軍港付近を通りがかった際に目にする全身灰色の駆逐艦などに、言いようのない高揚感を覚えたことがあるはず。

客観的にその浮かれっぷりを見せられると、しっとりとした狂気を感じる。

 

 ご本人のキャプションの日本語訳がこちら。

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出たソンタグ

写真界でソンタグ持ってくるのはFF6アルテマ唱えるに等しい。強力である。

 

 

<7 誉田屋源兵衛 黒蔵> (こんだやげんべい くろぐら) マルク・リブー《Akaska》Presented by CHANEL NEXUS HALL

 

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 帯問屋、誉田屋源兵衛。江戸より約280年続く歴史深い老舗。現在の10代目・山口源兵衛は問屋業に止まらず、自ら帯作りに挑戦した。そのあたりは公式HPをぐぐりましょう。内田裕也は帯が似合うので傾奇者でOK。

 

<参考:FERIC(フェリック)>

現代の傾奇者たちに捧ぐ -誉田屋源兵衛×ユナイテッドアローズが復活させた着物- /FERIC

 

誉田屋源兵衛はKYOYO GRAPHIE会場の中で最もワンダーな建築であった。

 

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 間口をくぐってから会場の「黒蔵」に辿り着くまで何度も空間が変わる。土間だけでも相当広いがこの母屋も美しく、天井が高い。京町家資料館かと思うぐらい手が入れられていて保存状態がよい。

 

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 誉。地酒の銘のようでドキドキします。

 

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可愛い。粋ですね。 

 

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母屋の通路を抜けた先に立つ、黒い館。そこにマルク・リブーの極北のモノクロ写真が輝きます。

 

以下はフリー紙より。

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1958年。

まだ白黒テレビが三種の神器の一つとして趨勢を誇っていた時代、アラスカのルポというのは大変な冒険であったことと思います。youtubeも無いから現地住民が実況動画をUPしてくれるわけでもなく。エスキモーって何してる人ですか? アンカレジってバーあるんですか? 零下数十度になるなら馬とか死にませんか? みたいな。馬は死ぬよ\(^o^)/むしろ死んでた。

 

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地元民の素肌の生活、極北の荒涼感と旅の孤独、そして高揚が静かに満ちた作品群。これを見て私は「ああ、モノクロームは雄弁だ」と思い出した。そしてむしろ馬は死んでた。アラスカには場末のハードコアが吹き荒れている。

 

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ポストカードより。

人の住めそうにない極限状況で日々を生きている人がいる。そのことに私たちは興味を失ったわけではないと思う。むしろ、今も好きだ。だがやはり景気のせいもあるのか、多大な取材費を要するエクストリームな特集を目にすることは非常に少なくなった。google先生が出版物を駆逐した成果なのかもしれない。いずれにせよ世界は広く繋がったわりに薄くて均質になった気がする。白黒写真いいなあ濃厚な香りがする。

 

 

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 会場はクールな白と、漆黒の木板とのコントラストが◎

  

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入る瞬間も、出る瞬間も、かっこいい誉田屋源兵衛。

  

 

<8 無名舎>(むめいしゃ) 山谷佑介《Tsugi no yoru e》

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 無名舎の良さは格別でした。滅茶苦茶に落ち着く祖父母宅という趣。

ずるい。私は思った。これはずるい。

しかし1909年に建てられた家で、ガラスを一枚も使っておらず、四季と歩調を合わせて呼吸するような物件である。ずるい。仕方がない。

 

  

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これはずるい。

明治、大正とおしゃれ番長の名をほしいままにしてきたであろう滑車。

いつの時代にも「おしゃれとは何か」 「POPとは何か」を完璧に知っていて迷いなく体現できる人種がいる。羨ましい。

 

 

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入口にボード。誰ですか写真展示にスケボーで観に来たのは。

∴ たぶん作者(山谷佑介氏)の意向

 

私の記憶からすると小学校時代(昭和末期)に近所の路地でスケボーが流行っていた。 そのため「スケボー文化」=「バブル期の断末魔」のイメージが極めて強く、いまだに日本のストリートカルチャーを誤解している節がある(=バブルの残滓的な)。 

 

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作者は1985年生まれと私より5歳も若い。よくまあこんな風雅で祖父母宅みたいな環境を相手に展示を模索したものだと唸らされる。みもふたもないことを言うと、ここは展示が有っても無くても完璧に素晴らしい物件で、縁側で日光を浴びているとそれだけで幸せになった。なってしまったのです。関西のラリー・クラークはこの深すぎるポテンシャルの町家に花を咲かせることが出来たかどうか?そこは皆さんに判断をゆだねます。

 

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東松照明の下で武者修行をしたという作者。確かに素晴らしい。しかしこの町屋の「間」とか「陰影」はどうだ。優しいのに深い印象をもたらす。

 

 

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 ( ゚q ゚ )一日ずっと居れます。

パンク、無軌道なセックス、自己愛と破壊衝動、ファッションと記号、仲間… 10数年前を思い出します。あの頃はけっこう京都をこばかにしていました。今は障子から漏れる光に心をとんと押される感じがあります。毛髪が減りそうなのでパンクファッションはしません。

  

 

<9 花洛庵 野口家住宅>(からくあん) ヨシダ キミコ《All that's not me ― 私じゃない私》Presented by Gucci

 

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 今回のKYOYO GRAPHIEにおける最強の展示。

日本生まれ・日本育ちの日本人には絶対に成し得ない四則演算の美を見た

被写体は作者本人のセルフポートレイトだが、自己を媒体とし、異世界の様々なかたちを呼び出しては纏う、静謐なシャーマンのようであった。

 

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《絵画<パオロ・ウッチェロ画、サン・ロマーノの戦いより

   ―ミケレット・ダ・コティニョーラの援軍>》2010年

 

活きの良い、暗くて速いドラムンベースやテクノと合わせると驚くほどフィットし、何時間でも鑑賞していられると確信した。けいさつを呼ばれるのでしませんが。彼女のデザインは疾走感を伴っている。 

 

一応パオロ・ウッチェロ「サン・ロマーノの戦い」を調べてみたが、騎馬部隊の戦闘シーンである。彼女のこのビジュアルがどこから来たのか全く謎。凄すぎる。凄い。

 

 

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 解説員のおっちゃんいわく「ヨシダさんは、顔は日本人だけど、ずっとパリで生活しているから、日本語はほとんど喋れない」だそう。日本人では絶対に辿り着かない「和」の解釈法について非常に納得した。表現の在り方は、やはり当人のプログラムを支えている基底言語に大いに依存すると感じている。

 

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異世界との徹底した対話そして召喚、纏い、装い。これは 私にとっても宿業のテーマですから何とかしたいところ。毎日観に行きたいぐらいの素晴らしい作品。会期終了が惜しまれます。

 

 

<10 両足院(建仁寺内)>(りょうそくいん) 榮榮&映里(ロンロン&インリ)《妻有物語》

 

 

 

 \(^o^)/ 行ってない

 

 

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 ポストカードより。

観てないので分かりません・・・

 

 

後編へ続く。

  

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