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写遊百珍

関西をメインに、美術館・アートイベント、登山、廃墟、珍スポットなど珍奇なものをご紹介。

第17回 大阪ヨーロッパ映画祭(4)11/23

11/23(火) 第17回 大阪ヨーロッパ映画祭(4)

(1)http://d.hatena.ne.jp/MAREOSIEV/20101120
(2)http://d.hatena.ne.jp/MAREOSIEV/20101121
(3)http://d.hatena.ne.jp/MAREOSIEV/20101122

最後にレビューする2本の作品を以って今年のヨーロッパ映画祭は終了。
またネタバレひどいので注意です。


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『あきれた日常』(英題『The Misfotunates』)
2009年/ベルギー 106分


ダメ家族。
本っっっ当に今年の映画祭は男がダメ人間ばっかりだな。
好きだ。


原作者デミトリ・ヴェルフルストの自伝的小説から脚色し作成された。
主役はギュンター・ストローブ。
(字幕ではストロベ)
13歳の少年時代と27歳現在とを行ったり来たりする。少年時代の家庭環境「家」なるものを思い出しながら現在の彼は小説を書いているのだが…


チラシが既に、この「ストロベ家」なるものの無茶苦茶さ加減を物語っている。



全裸で自転車競走。


13歳のギュンターは祖母、父親、3人の叔父と暮らしている。母親は離婚して出て行ったので、祖母が実の母親同然となっている。男たち4人がどうしようもない連中で、父親はアル中、3人の叔父もそれぞれ女たらしだったりギャンブル馬鹿だったり暴力気質だったりで一筋縄ではいかない。彼らとの日常生活は破天荒であるが、当初の「ろくでもない大人たちとの珍奇でコミカルしかし心温まる日々」が繰り広げられるのではという予想は深く裏切られた。確かにコミカルで、喜劇と呼べる場面も多いのだが、描写をもっと湿っぽくしていたなら一転して重い社会問題のフィルムになっていただろう。男ども、特に父親の破綻ぶりがシリアスで、楽しい日々の反面、身の危険や将来の危惧を心底考えざるを得ない状況へとギュンターを追い込んでいく。


公式パンフレットにもある通り、この映画が陰惨な暗さに覆われることなく、表面のコメディと内部のシリアスな行き詰まりを同時に表現し、彼らを厭わずに受け入れることが出来るというのは、俳優陣の卓越した演技の成せる技だ。それぐらい、素で観ればここで描かれている一家の状況はひどい。ギュンターが家を出て寮に入るべきかを悩むのは当然だ。一家の中で、なぜかギュンターだけは常識的な感覚を持っていて、自分がこれからどうすればいいかを考えている。


一方で、どうしようもない一家にも面白味と愛着があり、両天秤にかけて彼は悩む。特に父親は、一見、豪放磊落で大きな男かと思いきや、メンタル面の弱さが病的で、自分の元を息子が去ることに対して「裏切り」と称し、恐ろしく深い恐怖を抱いている。本当に現実に問題を起こしているアル中の家庭では確かにこのような、恫喝にも近い形で周りの者を引き留めようとする。「俺を裏切るのか」「あの売女のように」と喚いてみせる。意のままにならなければ暴れる。冷静になれば反省もするが、別に生活習慣に改善はない。負の連続性が浮き彫りになる。


序盤はストロベ一家の面白さ、特異性がクローズアップされる。が、彼らがただの面白いアウトローではない面が少しずつ織り交ぜられていく。都度織り交ぜられる27歳現在のギュンター。彼は作家志望で、執筆と投稿を繰り返しているが、芽が出ない。恋人は妊娠を告げ、子供を産みたいと言う。ろくでもない大人しか見てこなかった彼は父親になる自信がなく、拒絶する。生来の優しさゆえか、諦めか、生計を立てるべく努力する。日中は様々なバイトをやり、空いた時間で執筆する生活になる。葛藤の種が尽きないので、観ているこちらも彼に何とかなってほしいと思うようになる。子供が生まれたときのギュンターの表情は格別に冴えなくて複雑、厄介事がとうとう形になったとでも言わんばかりだ。死産の望みは絶たれた、とでも言いたげだ。笑えない冗談だが笑ってしまう。


過去のストロベ一家が繰り広げる騒動、奇行は見ごたえがある。税金を滞納して役人と小競り合い。他人の家に行ってTVを見せてもらうと言って大騒ぎ。飲んでばかりいる。鳩のフンが洗濯物にかかるといえば猟銃を持ちだしてくるし、ビール早飲み大会では俄然張り切って優勝する。全裸自転車レースも、一家の誇りとか何とか言って、実に大人げなくノリノリで参加する。それに対抗意識を燃やした叔父の一人がアルコール入りツール・ド・フランスを計画。原作ではそこまでハードな描写はないらしいが、映画では存分に珍奇な画が楽しめた。いい年して全身の肉が若干たるんでいるオッサン(父親)が嬉しそうにガッツポーズしながら全裸でチャリに乗っている姿はシュールだ。酒場、酒席で興る「オッパイの歌」「アソコの歌」などポイント高い。


陽気なイベントと対照的に暗い影も深まってゆく。父親のアル中度合いが進行し、とうとう寝起きに一杯ひっかけないと両手が震えて水も飲めない状態に陥っていた。児童保護の係員がとうとう家庭訪問に訪れ、ギュンターを寄宿舎へ入れることを勧める。火が点いたように怒り狂う父親の姿は観客にすら恐怖を与える。それまでコミカルな一家の情景も多かっただけに、落差に衝撃を覚える。この映画はゆるさと緊張感の両方が交互に襲ってくるのが特徴だ。刃物に手を掛ける父親だが、何とか最悪の事態を回避した。後、ギュンターは寄宿舎に、父親アルコール依存症の治療施設へ入る。他3名の叔父たちも、女の元へ行ったり、交通事故で入院したり。ストロベ一家の騒がしくもユニークで珍奇な生活は、一旦幕引きとなる。


数ヵ月後、酒の抜けた健康そうな父親と外で再会するが、家に戻れば同じことだった。アル中や薬物依存、糖尿病など生活習慣病は本人の資質、努力以上に、周囲の環境に依るところが大きい。過去におけるハッピーエンドは3人の叔父によって砕かれた。町で一番酒を飲む郵便局員だったろ!というわけのわからない煽りに負けて「ビリヤードに行ってくる」「早く帰ってくる」と言い残し、父は早く帰ってこなかった。


闇に閉ざされかねなかった13歳の運命が、27歳で明るい展望を得られたのは良かった。作家デビュー。学校で罰を与えられた際のレポート発表を難なくこなしていたあたり、文才は既に備わっていたのかもしれない。
絶望すれすれながら、演技力と構成力が素晴らしい余韻を生んだ良作。



来日ゲストは、3人の叔父の一人を演じたベルト・ハルフット氏。



おい、こんなイケメン映画にいたか?


('o' )


俳優の実力。別の人間になりきるという。しゅっとした線の細いイケメンが出てくるとは。
作中ではもっともっさりした、胡乱なオッサンだったのに。



彼だけは映画の紹介ページではなく、自らの希望で来日ゲストの一覧ページ、自分の項目にサイン。
監督やプロデューサーじゃないし、主演者名のところにも彼の名は記載されていないから、なおさらでしょうね。



こんなかんじ。



また観たいな。


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これがラスト。

『テラシア島のおまわりさん(仮題)』(英題『Small Crime』)
2009/ギリシャキプロス・ドイツ 85分


まったりとゆっくり楽しめる。
特に何も言うべきことがない。すごく安定したヒューマンドラマ&ゆるい謎解き。



僻地のおまわりが暇すぎて羨ましくなる映画。
しかも美人なテレビキャスターと親交を温めたりして。




海外でのDVDジャケ。
まあおおむねこんな感じ。




公式HPより。
まあおおむねこんな感じ。



エーゲ海に浮かぶ小さな島である日、酒飲みのオッサンが崖から転落死していた。事故として処理しようとする署長だが、主人公;新人警官レオニダは「事件」と推測し、独自に謎の解明を試みる。島へ戻ってきた有名人;テレビ司会者アンゲリキがオッサンとどうも親子関係にあるらしい。レオニダとアンゲリキはオッサンの死を捜査するが、オッサンのあばら家が島の開発計画のために取り壊されそうになる。バリケードを張って一大レジャーランド建設計画に反対する傍ら、親密になっていく二人の様子も描かれる。ドラマティックというより全編を通じてまったりとしていて、島内のゆるい時間の流れそのもののようだ。


カメラワークにも工夫があって、冒頭の空撮でバイクを走らせるレオニダと何もない島を捉えたり、双眼鏡を多用し覗き、覗かれ、そのシーンを観ている観客がまた観られているかのような視点の切り返しがあったり、面白い。
不思議ちゃん市長が大切にしているリゾートランド開発模型を海で燃やす場面、オッサンの死体の保管場所に困ってアイスクリームのフリーザーにアイスごと放り込み安置する場面は特に優れていた。


オッサンの死について村人に話を聞いて回るごと、各人それぞれが全く異なる推理を語るのも面白い。軍の陰謀とか、絶望からの自殺とか、誰かに狙われてだとか。最後にまさかのすごく思いがけない形でレオニダはオッサンの死の謎を解くが、勢い余ってレオニダはオッサン同様に滑落死するところだった。去年までのヨーロッパ映画祭のラインナップだったら本当にそこでレオニダが死んで終わりかねないのだが、今年はちゃんと片足骨折で済んだ。本当に良かった。ええ。



これもテアトル梅田やスカイビルで上映されていておかしくない作風。
この回は来日ゲストがないため、写真は無しです。
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以上で、ヨーロッパ映画祭レビューを終了。
いつか安価でこうした作品の日本語字幕版が観られるようにならんものか…。