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写遊百珍

関西をメインに、美術館・アートイベント、登山、廃墟、珍スポットなど珍奇なものをご紹介。

【映画】『ピリペンコさんの手づくり潜水艦』

ピリペンコさんの手づくり潜水艦

2010.2.13(土)


またも九条シネ・ヌーヴォに行ってきました。
例のマイナー映画を率先して取り上げてくれる、夢のような映画館です。
別に友達がいないからとひねてるわけではない。
「自分で潜水艦を作って海に潜る」というわけのわからんオッサンの話をやっている、と聞いて、そんな珍妙なことがあるかいな、どれ、ということで行ってきたわけである。


例によってレビューとも唯のネタバレともつかぬアレで書き遺しておこう。





『MR PILIPENKO AND HIS SUBMARINE』2006ドイツ
邦題ピリペンコさんの手づくり潜水艦
監督;ヤン・ヒンリック・ドレーフス&レネー・ハルダー
出演;ウラジミール・アンドレイェヴィチ・ピリペンコ
   アーニャ・ミハイロヴナ・ピリペンコ
   セルゲイ・セミョーノヴィチ・ホンチャロフ
   イルカ号



ストーリーは単純明快。ピリペンコという男が潜水艦を手作りして黒海に挑む。
30年かけてコツコツと自分の夢を叶えようとする中年男性のフィナーレを静かに追うドキュメンタリー
出演欄が全てを物語っているが、上から順に本人、妻、協力者の友人という3名。
超地元感溢れるまったり映画である。超まったりだ。
このまったり感はパネェ。
最後の「イルカ号」は言うまでもなくハンドメイド潜水艦の名前である。
まったり感パネェ。



内容もまったり感パネェでした。
まじでまったり。
パネェ。











おわり。












・・・・・・というわけにもいかないので



パンフレット(B6 128×182、400円)および公式HPの写真・イラストを引用しながらレビューを書きます。



ピリペンコさんの手づくり潜水艦
潜水艦イラスト(※クリック→公式HPへ)
なんかそれっぽい。



この緑色の物体こそ、ウラジミール・ピリペンコ氏(ウクライナ生まれ・62歳)が30年かけて作り上げたお手製潜水艦だ。
映画では、ほぼ完成に近い状態から物語がスタートする。
レネー・ハルダー監督が「映画撮影のために1年間、滞在することになった」と書いているように、映画は「ピリペンコ物語」のラスト1年間に集中されている。バッテリー装着の後、運搬手段の確保と、近所の池での試運転、そして黒海への長旅と挑戦という流れだ。


私はてっきり、ピリペンコが潜水艦をじりじりと制作する過程を面白おかしく、5年とか10年分をカットしながら映し出すものかと思っていた。なので映画が始まって直後、既に形の上では出来上がっている緑色のソレを目にして「あれ?」「もう終わってる、」と拍子抜けしてしまった。

映画の予告編や公式サイト、パンフレットの寄稿から受け取れる共通のメッセージは、人生を自分らしく生きることの素敵さとか、自分の好きなことをし続けたり、挑戦心を持つことの大切さとか、味のある隣人の愛らしさとか、そういったものが挙げられる。まったり感パネェ。 実直に、こつこつと、まったりマイペースで生きていくことの素晴らしさである。確かに。


自分がまだ「人生の味」を噛み締めるには至らない小僧であるせいか、そうした人生への賛歌はまだ実感しなかった。もっと高齢になってから振り返りたいと思う映画である。まあ、高齢になったところでどうせ原住民から殺意の目で囲まれながら絶叫し続けるクラウス・キンスキーにしか興味がないであろうが。


そう、私が心のどこかで期待していたのは、執念や狂気と呼ぶに足る何かのカオスであったのだと見終わってから気付いた。「あなたは求めるものがズレている」とよく指摘されるが、それはともかくとしてこの潜水艦親爺ピリペンコにはただただ、淡々とした夢と希望があるだけなのだ。拍子抜けするほどに。

「なぜこの男は潜水艦を自分で?」という問いに対する答えがあるわけではなかった。山に登る人に「なぜ山に?」と訊くようなもので、ピリペンコ親爺にとっては「ずっと作りたかったから、ずっと作ってる」ということだ。
この映画には余計なナレーションはなく、誰かがインタビュアーとして彼の過去や心境を解析することもない。ただひたすら淡々としている。カメラは彼と、彼の家族と村の人たちを静かに平熱で見つめるだけにとどまる。それゆえにほんのりとしたいい味が出ているが、逆に抑揚の無さゆえの少々眠たい作品であったことも確かだ。体調の悪い日に観に行くと眠ってしまう可能性大である(私のように)。
もし映画の評価項目に「淡々度」なるものがあったとしたら、この映画は高位にランクインするであろう。パネェ。




これだけ見たらもはや車そのもの。

自宅のガレージ的な工作スペースには緑色の潜水艦・・・というより、フォルクスワーゲン・ビートルを緑に塗装して潜望鏡を付けた、潜水艦型自動車と言うべきか?


そもそもどうやって作ったかと言えば、棚の上でズタボロになった小汚い束を取り出して「鼠が齧ったかな」とか言いながら、70年代の雑誌『水中スポーツマン』なるものを見せてくれる彼。「これは詳しく書いているんだ」って、どう見ても簡略図です。潜水艦にはおおむねどんな機関があるかをまとめただけの本に見えるのだが、こんなものを手本にパーツを集め、車のスクラップ部品を集め、コツコツ作ったかと思うと、只者ではない。

残念なことに、当のピリペンコ親爺はあくまで「市井の人」として淡々と描写されており、エキセントリックな要素、脚色は一切ない。孫にデレデレだったり、奥さんに年金無駄遣いを咎められたりしてる淡々なる姿が多い中で、彼が最も輝きを放った瞬間。それは



潜水艦がバシュウ!してテンパった時




(´∇`) 感動した。





やっとの思いでトラックの手配をし、潜水艦を家から近所の池まで運び、近隣の人々がお目出度そう&不安そうに見守る中の試運転。人力で押して池の中へと入っていく「イルカ号」だが、ハッチを閉め、バラストに水を入れて。いざ、潜行しようとしたら、



ボチョボチョボチョボチョボチョボチョ・・・・・




あれ?




(*_*) 水 漏  れ 。






おっちゃん! 上から漏れてる!
水滴どころか、蛇口を甘くひねった感じでボチョボチョいうてる!




こ れ は 潜 水 艦 未 満 。



さらに、
(マニュアルのメモを手に、すっげえ目で追いながら、)エンジン起動し、潜行を進めようとしたり、何かをしようとしていたら




「バシュウ!!!」



手前のパイプが破裂。
何のパイプかは分からないが、それまでの静寂をぶち破り、ピリペンコ親爺の右足元から突然の破裂音が。


「ビクゥッッ!!」



この時のこわごわしたピリペンコ親爺の顔が最高である。
淡々としながら内心けっこうなパニックのようで、ナチュラルにもう何をしたらいいか完全に見失っている中年男性を見るのは貴重な体験だった。「ブシュウウウウ」「ジョボジョボジョボジョボジョボ・・・」のダブルコンボに加え、池の水は緑色。透明度はかなり怪しく、どこを向いているか東西南北が全く危うい。




(>_<)これは潜水艦以前の状況。

ジョボジョボ。。



下手したらこれは近所のため池で死ぬのではないか? とりあえずは課題発見ということでしばらくピリペンコ氏はまた作戦を練ります。
そしていよいよ、村から400km離れた黒海への旅立ち。




旅立ちの直前に奥さんが感極まって泣いたりして、少しグッとくる。
「旅立つ前にまず座れ」みたいな、妙にしっくりくるウクライナの慣用句を持ち出して、ベンチに腰掛けさせて別れの前の会話。たった2,3日の旅出なのだが、たぶん今までそういうことをしたことがなかったせいもあるのだろう。あ、それ以上にあんな潜水艦で黒海に30m潜るなんていうのが不安なのか。それは泣くかもしれん。



旅はセルゲイ氏と二人で。いかにも旧共産圏な古びたトラックで町を越え、山を越えして進む。荷台に乗ったま緑色の潜水艦(のようなもの)は人々の目を引く。
夜は適当な場所で車を止めて、道端や空き地に毛布を敷いてそのまま野営。朝の洗顔はミネラルウォーターのボトルで。このウクライナ版「路上」ライフは観ていて面白かった。おそらく誰もまだレビューもしていないし、観光で行き着くこともない、地図上に記載されているばかりの道、町があり、路上でチョウザメキャビアの瓶詰を売っている人々が映し出される。興味深かった。



実はこの映画のヤマ場は黒海へのトラック旅だった、とも言えそうなひと時の後、やっと念願の黒海に到着。
そして実は、この映画の真の見せ所は各シーンで印象的な、ウクライナの風景。
海辺で徐々に空が暗くなって、透明な青が迫り、最後の夜を明かし、また夜が徐々に明けてゆく朝日。その空の透明度は美しかった。




簡素なワイヤーをぐるぐる伸ばしながらゆっくり潜水艦をトラック荷台より下ろし、着水、潜行。




ブクブクブク・・・



今度はもうジョボジョボ言わない。水漏れ対策はバッチリのようだ。安心した(←マジで)。
ため池挑戦の時とは違って安定感がある。
いけるか潜水艦親爺!
「見ろ。クラゲだ」
おお、船外を見る余裕もある。
・・・透明度低いな。
「すべての生き物と対話したい」とかピリペンコ親爺は語っていたが、
・・・クラゲと小魚と藻のみ。
わりと寂しいぞ黒海
そりゃ海岸から数m〜十数mのところでブクブクしてるからなあ。
どうやら順調のようだ。





静かな光景のさなか、







「ブシュウ!!!」






ピリペンコ吃驚 (・ ・ )”





(/ _ \) ま  た  破   裂 。





前と同じく右足元あたりのパイプがブシュウ。

その後、「パイプ破裂」「エンジン故障」等で潜水は約6mにて断念。
最初は30m潜れるよ!と断言していたから、夢半ばで果てたことにはなるが、まあよく6mも潜ったものだ。



ラストはピリペンコ親爺とセルゲイが向き合って短い突堤の上、化け物みたいに口の開いたわけのわからん小魚(カサゴ?)を焚き火でいぶっているシーンで締め括り。珍奇なコミカルさを醸した上で徐々にカメラは引いてゆき、浜にしっかり引き揚げられた「カモメ号」も映し出される。





映像が非常にデジタルデジタルしていたのが、ウクライナの美しい風景をラフに切り取ってしまって残念ではあった。クオリティの上限の話をするとそれはまた際限のない話になるから、これはこれで良しとすべきか。



良い映画でした。
が、好きかどうか、求めていた内容かと言われれば全く別。
若さゆえのアレかも知れないが、もっと刺激というか、好奇心や創造力をくすぐられる内容だったら良かったのだが。そんなことを言い出すと、ドキュメントではなくピリペンコ親爺をモデルにした伝記的コミカル映画を新たに作るべき、という話になってしまうからそんな無粋なことはよう言いまへん。。


とにかく「ブシュウ!」で吃驚するピリペンコ親爺に萌えるという映画である。
淡々と萌えよう。

                                                                                                              • -


周囲の人々の温かい眼差しと姿勢は素晴らしいものがある。こんな定年後の生活っていいね。
年金は担当員が自転車で手渡しに来る。



彼の住んでいるのは「エヴゲイニフカ村」という場所。
ウクライナ平原の中央あたり、とのことだが、


( ゚〜゚ )” 
・・・場所をyahoo mapで調べてやろうとしましたが、マイナーすぎて全くわかりませんでした。
ロシア語表記時のスペルがわからないし・・・。
見つけ次第リンク張ります(←意地)




作中で非常に気になったことの一つが、食事時にハエがやたら多いことだった。もっと冷涼でカラッとした気候で、ハエみたいな小虫には縁がないかと思っていた。東欧の中央あたりの田舎って想像以上に湿っぽいのだろうか。
みんなあまり気にしていない。
スゲー。



ピリペンコさんの手づくり潜水艦
おまけ;公式ポスターがこれ。(※クリック→公式HPへ)


公式HPでは潜水艦ペーパークラフト(色なしVer.)がDLできる。
A4サイズで出力し通常よりやや硬めの紙でプリントアウトすると上手にできます。
お好きな色をつけて制作してみてください。
とのことです。
俺もピリペンコになりたい、若干追従したいという方はどうぞ。