写遊百珍

関西をメインに、美術館・アートイベント、登山、廃墟、珍スポットなど珍奇なものをご紹介。

【映画】第16回 ヨーロッパ映画祭(3)


11/22(日)【映画】第16回 ヨーロッパ映画祭 後編


mareosiev.hatenablog.com

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3作目の上映前に元・写真部のクメッツ嬢と合流しました。金曜の夜に名古屋からサッカーの応援のために広島へ行っていて、宮島などを巡って一泊した後、今日の夕方に大阪に辿り着いたそうです。ごくろうさまです。


雨が相当な降りだったのに「くやしいから」とビニール傘をぎりぎりまで買わなかった女子です。
ビニール傘を買った後も「かわいくない」「くやしい」と嘆いてはりました。


映画祭の会場前の敷地に、パオ的なものが設営されていて、中で雨をしのぎました。




広島みやげをいただきました。

私が日本酒に目覚めたことを、私の盟友キッシンジャー氏から聞いて、買ってきてくれました。ありがとう。家で酔わせていただきます。

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(3)原題『Schimb valutar』、英題『Exchange』
 邦題『両替からはじまる物語』/08’ルーマニア


またしても、親子関係を考えさせられる作品。子供と妻は大事にしよう。
それと、やはり欠かせないのがヨーロッパ圏の経済問題。労働者の雇用情勢が、実際に市民に対してどのような影響を与えているのか? 登場人物らはその中でどう生きるのか? 様々な視野から考えて触れると非常に面白いです。



1999年のルーマニアが舞台。地方に住む工場労働者のエミルは冒頭から失業します。徐々に旧共産圏が自由主義経済の余波を受け、もう国から安定的に仕事を受注できる時代ではないことが告げられます。デモに参加しているエミルの姿が、夕食時の茶の間で流れますが、なんだか滑稽です。


勤め先だったのが「ミジル部品工場」という名前で、よく分かりませんが好きなタイプの名前でした。


夫婦の会話は深刻そのもので、「家族がいなかったら国を出て働くんだが」とエミルが洩らすあたり、小学生ぐらいの子供もいるし、非常に切羽詰まっています。


そんな中でも、序盤はコミカルな間の切り取り方が多く、エミルと妻の父とのやりとりが特に冴えています。娘を心配して世話を焼こうとする妻の父とエミルは必ず喧嘩になり、自分の農場で働いてはどうかという提案をエミルは蹴ります。提示された額では生活が成り立ちません。


ここで「オーストラリアは土地がタダらしい」と、いきなりの移住作戦です。
何シーンか後にはもう家ごと家財を全て売り、引き取りの現場です。これは早い。あんまりエミル、深く考えてないんじゃ・・・。強気で家族を引っ張ろうとする彼ですが、地方の労働者にそこまでの情報源があるはずもなく、トントン拍子には話が運ばないと予感させられます。


妻と子を妻の実家に預け、エミルは全財産を首から下げて首都ブカレストに向かいます。
移住手続きは煩雑で、まず大金をドルに両替して振り込まなければなりません。字幕を追い切れなかったので忘れましたが、1ドルが数万レイだった気がします。
(90年代初頭には激しいインフレに見舞われたが、度重なるデノミにより現在は大幅に変わっている)


銀行にドル両替に行くも長蛇の列。遅々として進まないが、目の前のスーツ姿、アタッシュケースの男が携帯で両替の話をしている。手持ちのドル現金と両替してもらった方が話が早そうだ、と素人判断で踏んだエミルは店先で、家まで売った全財産をそっくり両替します。ビジネスマン風の男からドルの札束を手渡されると突如「警察だ!」 


慌てて駆け出したものの、警察らしき人物はどこにも見当たりません。ポケットに隠し入れたドル札の束を見ると・・・見事にやられました。中身は雑誌か何かを切り抜いたクズ紙です。上下の数枚だけが本物の札。
エミルの落胆ぶりは、それは可哀相でした。茫然自失という言葉が最適です。歩きながらも何処を見ているのか、全くどうしたらいいか途方に暮れているのが伝わります。


たまたま、電話のカードを手に入れた彼。妻に電話をかけるが、とてもじゃないが説明できない。無言で受話器を置きます。


警察に行くも、まさに旧共産圏の昔ながらの官僚主義。懐かしいぐらいでした。書類を書かすだけ書かせて、手掛かりもないのに犯人なんか見つかるわけがない、という態度です。しかも「路上での両替は犯罪だぞ」と逆に詰め寄られる始末。「騙される方がバカなんだ」うわ、さいあくや。
全く誰も頼りにならず、一層の不安が満ちてきます。この太った引退間近の警官・・・仕事しろ! と言いたくなります。


エミルの首都でのホームレス生活が始まります。ベンチで寝ては警官に注意され、身を休める場所もありません。
家屋の建築現場など、日雇い労働に参加することで、とにかく当面の生活資金を得ようとします。


偶然知り合ったモルドバ人の法学生リリが、彼の生活の強力な助けとなります。売春で学費を稼ぐ彼女は、彼氏を追いかけて来たのだと言いますが、どうやら破綻に終わった様子。仕事として彼女の部屋の排水管を直したり、内装を塗り直したりしているうちに、リリと話を重ねることに。

終始、しょんぼりと下を向いて、空気の抜けた風船のようなエミルに対し、リリはいつも快活に笑って前向きなことしか言いません。あっけらかんとしたリリの逞しさに、観ているこちらが元気をもらえるぐらいです。彼女がいなかったらどんなに凹む話になっていたことか・・・。


その日を食いつなぎ、ある時はベンチで、ある時は病院の待合室で夜を明かす一方、エミルはブカレストの大通りを歩き回ります。両替詐欺のスーツの男を探し出すために。街の至る所に両替屋が立っていて、道行く人々に声を掛けています。その様子を注視しても例の男はなかなか見つかりません。


・・・と言いながらも、割と早い段階で例の男を発見します。必死で尾行するエミル。詐欺師はイケメンで、スーツを着こなし、しゅっとした姿で夜の街を歩く。女達にもウケが良さそうだ。しかし予想を遥かに超えた「あばら家」と呼ぶのがふさわしいオンボロの家に辿りつきます。先程まで、ダーティな世界を渡り歩く危険なイケメン、に映っていた詐欺師が、ただの「正業に就いていない貧しい若者」へ。この落差は衝撃です。


「賭けで全部スッちまった」さいあくです。エミルは勢い余って詐欺師を煉瓦や椅子で滅多打ちにし、撲殺してしまいます。


奪ったアタッシュケースと共にリリの部屋に駆け込みます。開けてみると、両替詐欺の道具だけが入っています。本当にエミルの大金は全部使い果たしてしまったようです。落胆するエミルですが、その時思いつきます。道で立つ連中のように、この紙きれで出来た札束を使えばと。リリ「それは犯罪よ」とたしなめますが、そこからはかつて自分がされたことを、道行く人にする番です。


お世辞にも上手いとは言えない詐欺で、「警察だ!」と叫びながらのダーティな稼業。まだこの時点でのエミルには滑稽さが残っています。根からの悪人ではないのでしょう。

離れて暮らす家族には、「手続きにあまりに時間がかかるので、ドイツに滞在して仕事をしながら待機している」と大嘘をつき通します。定期的に送金し、電話を欠かさないエミルの姿は微笑ましいものがあります。特に息子のことは気にかけています。なんだかんだで、サッカーの練習も続けていて、試合に出たり。奇しくも、この二重生活を繋ぐ電話の度に、エミルと家族の両者の生活は豊かさを見せてゆきます。


エミルはリリと性的な関係を持つに至りますが、ムード上、勢いでといった感じで、リリはあくまで学業の傍ら、他の男を客にとる生活を続けますし、家族を大切にするエミルを傍から応援するポジションです。なので観ていて爽快でした。


しかし、詐欺男の殺害容疑で警察に追われ、長い二重生活を重ね、老夫婦から自分がされたのと同じ手で大金を騙し取り、エミルはもう滑稽なキャラの人物ではなくなります。ラストには、家族にまともに顔もむけられない、偽りを重ねすぎた後ろめたい人物として描かれます。



移住のための金を工面し直したエミルは、妻と息子を呼び出し、同じ便でオーストラリアに向かう旨を連絡します。しかし、鉄道の駅でも、空港ロビーでも、搭乗ゲートでも、飛行機に横付けするバスの中でも、彼は家族と会おうとしません。英語も分からないしと不安がる妻をよそに、現地で会うと言い、自分の顔を曝さないのです。その心中については特に言葉でも表情でも表わされていないので、何とも言えませんが、既に家族に顔向けできない何かがエミルの中には備わってしまっていたようです。



偶然にもバスの中で、かつて自分が詐欺のターゲットにした男性に会い、詰め寄られます。掴まれての押し問答の末、服がはだけ、拍子に大量の札が風に吹かれて飛び散ります。非情なラスト。何百枚という紙幣が飛行機の周囲を舞う中で、我先にと拾い集める他の客とエミル。尻を突き出して金を追う姿には、滑稽さはもうありません。


久しぶりに会う父親に近づく息子ですが、エミルは咄嗟に突き飛ばします。振り向いて、それが自分の息子だということに気付いたエミルですが、残念ながら、茫然とする息子を放置して、ばつの悪そうな顔で立ち尽くすのみでした。息子は一人、泣き出しそうになるのを堪えて母親のいる座席へと戻ります。再び、金を拾い集めるエミル。



飛行機の離陸となり、エミルは妻子と離れて前方のビジネスクラスに一人座ります。後ろには妻子がいることを十分に分かっていながら、新聞に目をやって、決して振り返ろうともしない。そこで映画は終わりです。



エミルを演じた俳優ロディカ氏も「役者が演技をするときには、なぜそういう演技になるかは説明がつかないところがある。これは言葉では説明できない」と語っていました。今までの、お人好しで滑稽さの漂うエミルから、完全に目付きの変貌したダーティな人間となってしまった彼が、その胸中で何を思ったのか、その後にどうなったのかは、観客に全て委ねられました。



非常にラストの描写が気になる作品でした。
本当に、これ、新天地で家族生活はどうなるんでしょうね。



構造として、とても軽やかな展開を見せ、ラスト以外はすっきりと味わえます。
最初に登場する引退間近の太った警官も、度々エミルが訪ねていって「犯人は見つかりましたか?」「見つかるわけがなかろう!」という不毛なやりとりをしていたのが、最後はパトロールに出て、容疑者を挙げてきてエミルに確認をさせたり、人情味のある中年男性へとキャラが変化します。引退後、殺人容疑で追われているエミルにパスポートを渡し、「追われているんだろ?」と事情を知りながらも金で黙っててやるなど、想像以上にフランクな態度を見せてくれました。


非常に面白かったです。


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主演男優、エミル役のロディカ・イオネスク氏。

ちょっとそのシャツなんなんすか('o' ) ”
ピクシー&ディクシー。


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エネルギッシュに話し続けるロディカ氏。訊かれるより先に喋り出そうとする。
エミルの役を演じていたとは信じられないギャップです。あの冴えない、しょんぼりしぼんだおっちゃんと同一人物とは・・・。役者とは恐ろしいものです。


彼曰く、この作品の状況は現在とは異なり、ブカレストは違法な両替詐欺師がうろついているような危険な街ではないとのこと。美しい国だからぜひ来てくださいと。


クメッツ嬢の話では、駅構内などは宿のない人、ロマの子供たちが物をねだってぞろぞろ付いてくる状態で、犯罪にこそ遭わなかったけれど、気楽に振舞える環境ではなかったらしい。難しいところです。


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サイン会にて。iPhoneに入れていたルーマニアの写真を見せるクメッツ嬢。
さすがアグレッシブだ。


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「ピクシー&ディクシー、好きなんですか?」と質問しているところ。好きだそうです。
うへえ。



クメッツ嬢のテンションが地味にかなり上がってはりました。見ていてこっちが嬉しくなりました。異国の力。私は相変わらず日本語で話しかけたんですが、普通に「アア、ソウデスカ」と返されてひるみました。おっちゃん強い。
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クメッツ嬢が終電(新幹線)で名古屋に帰らないといけないので、近くで軽くだけ飲みました。
できれば延々、酒宴に浸っていたかった・・・。


ベルギービールと料理の店「DOLPHINS


ビールにももっと目を向けると面白い、と思いました。映画の後に色んな国の美味しいビール、そしてチーズとくれば、ため息が出ます。はぁ。



「両替から〜」上映後のディスカッションについてや、東欧の国について、作品の感想などを語りました。そんなに大層なことは言っていませんが、映画がなければその国や土地に想像を馳せることもなかった、自分の知らない世界のことを垣間見るなんて絶対になかったと実感します。



いい夜が過ごせました。
良き映画と仲間に感謝です。